【over night】 − 4 −

 ベッドに運ばれて、横たえられた身体に覆い被さって来るフィオレを、衛は素直に受け止めた。

 背中に手を伸ばし、衛の方から抱き締める。
 重なった唇を唾液に濡らしながら、何度も舌を絡め合う。
 抱き合う二人のペニスが触れ、身体の動きに合わせて擦れた。その刺激が心地良くて、無意識に腰を密着させる。

 愛撫する度に、衛の喉から微かな喘ぎが漏れる。衛はその吐息を飲み干す事なく、フィオレの耳元に吹きかける。
 ベッドに寝かされ、フィオレに組み敷かた衛は、身体中を愛されながら実に従順であった。

「…衛くん」
「フィオレ…、あっ…」
「可愛いね、君」
「んんっ…!」
「でも僕、もっと可愛い君を知ってるよ…?」

 フィオレは衛の胸から臍にかけて舌を這わせ、身体を衛の下半身へと移動させた。
 既に先程放出した衛のペニスは、放った精液で濡れていた。その名残をフィオレは舌先で舐め取る。

「…んんっ!」
「もの凄く敏感になってる。先をちょっと突付いただけで、すぐに硬くなっちゃった」

 フィオレは意地悪く笑った。
 衛は思わず目を閉じて抵抗したが、逆らわなかった。フィオレの舌の感触があまりに気持ち良くて身体中が震える。その快感を手放したくなかった。

「ん…、フィ、フィオレ…」
「舐められるの、好き?」
「…い…いい、凄く…」
「僕も君の気持ち良さそうなその表情、大好き…。ねぇ、もっと鳴き声、聞かせて?」
「あ…」

 衛は感じるままに嬌声を上げた。
 フィオレは焦らしながら、ゆっくりと衛のペニスを愛撫する。
 そして、衛が昂みに導かれながら悦楽を味わっている姿を薄目で確認しながら、そっと片腕をベッドの下に忍ばせた。

「フィオレ…、んんっ!」
「いい子だね、衛くん」

 目を閉じている衛は、フィオレの行動を掴めなかった。
 気付いた時には、足首に何かを巻きつけられていた。
 その感触に驚いて起き上がろうとしたが、咄嗟に身体が言う事を利かず、続いて腕を取られても逃れる事が出来なかった。

「な、何?フィオレ…」
「動かないで」

 まだ快感が持続している。じわじわと小刻みに波が押し寄せて来る。
 そんな衛の動作が鈍った身体を、フィオレは容易く思うままに扱った。

「あ…、やめ…」

 まず片脚の足首と、同じ側の手首を縛られた。
 いきなりの拘束に驚く間に、もう片方も同じように括られる。
 よく見ると、衛の両肢の自由を封じたのは、二人が風呂に入る前に互いに外して床に投げ捨てたネクタイだった。

「恥ずかしい格好だ」
「う…」

 両足首が手首と繋がっているので、寝転がった状態で膝を曲げている格好になる。
 裸の自分が、愛撫されているペニスをフィオレに見せ付けている状態であることは、衛にも良く解っていた。
 羞恥に自分の身体から目を逸らす。

「衛くん、どうして抵抗しなかったの?」
「う、動けなかったんだ…、お前が…!」
「そう」

 更にフィオレは、両手両足を括られた姿の衛を、大きく開脚させた。

「やっ、やだっ!」
「衛くん、君はこうして脚を広げさる格好が良く似合うよ」
「ば…っ、馬鹿っ!」
「本当に可愛いな、衛くん」

 開かせた脚を衛の頭の上にまで押し上げる。
 腰が浮いて、双丘の隙間が割かれた状態で露になる。先程フィオレに支配されたアナルが小さな蕾を晒した。

「…やめ…」

 持ち上げた衛の足を片手で纏め掴むと、フィオレはその窪みに指を捻り入れた。

「あぅっ!」

 フィオレのペニスを咥え込んで蠢いた衛のアナルは、既にきつく閉じている。
 再び挿入して来た指を、衛は拒むように締め付けた。

「痛いよ、衛くん。指一本からまた焦らすの?ゆっくり解さなきゃ駄目?」
「フィ、フィオレ…っ!」
「でも、君のここはもう待てないって言ってるよ?」

 アナルから抜いた指で、今度はペニスを突付く。
 衛はその刺激に大きく喘ぎ声を漏らした。

「縛られると、ますます感じやすくなっちゃうんだね。恥ずかしい格好させられるの、好きなんだよね」
「ち…っ、違うっ…!フィオレ、どうして…、なんでこんな格好させるんだ…よ。お前の言う事、ちゃんと聞いてる…のに、なんで…」
「君に良く似合うから。君が望んでるから」
「嘘だ…っ!…あ…んっ、んくっ!」

 フィオレはもがく衛の足を片手で器用に押さえ込んだまま、指一本をアナルに抜き差ししながら衛のペニスと両方を甚振った。
 指の動きだけで衛は、耐え難い射精感を手に入れていた。

「指…やだ…、」
「指は嫌?」
「…指じゃなくて、フィオレの…」
「僕の、欲しい?」

 衛は数回頷いた。

「最初から、フィオレの…くれよ。なんでそうしてくれないんだよ…」

 指が内壁を掻き回す。喘ぎと泣き声が混じり合った、情けない声を衛は漏らした。

「夜は長いだろ?色々した方が楽しめるじゃないか。せっかくの夜だもん。僕、衛くんと少しでも多く長く、愛し合いたいんだ」
「…フィオレ…」
「好きだよ、衛くん」
「……」
「今夜は僕が君を独占してるんだから、僕の言う事、きいて?」

 衛は目を閉じて、射精を促す快感に身体をびくびく震わせながら、小さく息を呑んだ。

「…こんな格好」
「ん?」
「こんな格好…、見せるの、お前だけだからな。絶対、お前以外には見せたりしないんだからな…っ!」
「…衛くん」
「こんな…、こんな恥ずかしい格好、お前にしか見せないんだから…な」
「衛……」
「……っ」

 衛は目を更にきつく閉じた。既に紅潮した頬が一段を染まったような気がした。

「衛くん…、じゃあ、もっと乱れて。僕にだけ見せて…!君の声、もっと聞かせて!」
「あ…んんっ!」

 限界だった衛のペニスをフィオレが強く扱いた。
 素早く指を擦り上げ、衛を解放に導く。
 痙攣していた衛の身体が大きく仰け反り、衛はフィオレが与える巧みな刺激で、堪える事も出来ずに射精した。

「あ…あ…んんっ…んくっ…」
「全部出していいよ、衛くん」
「あふっ…、んぅ…っ」

 最高の快感を得て、衛は恍惚な表情を浮かべて放出した。
 無防備な姿でフィオレの前に横たわる。

「可愛いよ、衛くん」
「あ……」

 M字型に広げられた両足。放心状態の衛は腹部と胸元を自身の放った精液で汚し、萎えたペニスをその下に晒していた。
 割られた双丘から覗く蕾は、支配者の侵入を待ち望んでびくびくと打ち震えている。
 フィオレが指を抜き差ししたせいで、先程衛の体内に放出したフィオレの名残が零れたようだ。
 一筋粘液が流れ、衛の腿を濡らしていた。

「衛くん、まだ朝はずっと先だよ」
「ん…んっ…」

 フィオレの口付けを衛は受け止める。
 無意識に口を開き、求めて来る舌を貪った。
 フィオレは応じる衛を抱き締めながら、再び衛のアナルに指を突き入れる。

「んくっ…!」
「今度はもう一度、僕を受け入れて。少し解してあげるからね」
「あっ、あっ、」

 指の数が増えて行く。
 フィオレを求める蕾は、抵抗しながらも指をどんどん飲み込んで行った。

「待ってて。もっと奥の君が一番感じるところ、もうすぐ突き上げてあげるから」
「フィオレ…、これ…もう解いて…」

 衛がじれったいように身体を擦りながら、手足の解放を求める。

「駄目。もう少しそのままでいて」
「やだ…、もう…」
「可愛い格好してる君を、思いっ切り鳴かせたいんだよ」
「…いや…だ」
「じゃあ、別な縛り方にする?もっと恥ずかしい格好、させてあげようか?」
「……馬鹿」
「もっともっと色んなことしようよ。衛くん、朝までは僕のものなんだから…」
「……」

 抱き締めていた衛の身体を横向きにさせると、フィオレは背後から改めて覆い被さった。
 手足を不自然な格好で拘束された衛は、フィオレに向かって尻を差し出す姿勢を取らされた。
 フィオレは身体を重ね、片手で衛のペニスを優しく握った。
 何度となく支配されたが、触れられた途端にやはり身体が緊張する。衛はフィオレが撫でる指の動きに合わせて鼓動が早くなるのを感じた。

「衛くん…」
「……あ」

 尻を撫でていたもう片手が、双丘を弄ってアナルを確認する。
 今度は指の代わりに、熱い塊が押し付けられる。
 一気に蕾を裂いて、大きな肉棒が突き刺さった。衛は掠れた悲鳴を上げた。

「あくぅ…っ!」
「衛くん…っ」
「ひっ!……あ…、ん…っ、んんっ!」

 挿入した途端に開始された律動に、衛も早くに反応した。
 指では満足出来なかった奥深い部分を、フィオレに突き上げられて、耐え難い気持ち良さを味わう。

「あん…っ、フィオ…、いいっ、そこ…」
「もっと?」
「…もっと、…あっ!あっ!」
「…衛くん」

 何度も何度も繰り返し、夜の鳥になった衛は一晩中鳴かされた。
 抵抗など失っている。思うままに抱かれ、悦楽を与え続けられる。
 衛は薄れ行く意識の中で、何度もフィオレを求め、存在を確かめ、安堵と快感の心地好さに身を浸していった。

■ ■ ■


「フィオレ…、もう起きて」
「ん…。おはよう、衛くん」

 衛の声でフィオレは目覚めた。
 シーツが乱れたベッドの上で、欠伸混じりにフィオレは寝ぼけた眼を擦る。

「そろそろチェックアウトの時間なんだ。用意しろよ」
「…ああ、もうこんな時間なんだ」

 衛は既に服を着替えている。
 襟を閉じてしまっているので見えないが、きっと衛の肌には幾つもの鬱血の痕が残っているに違いなかった。

「…何、笑ってるんだ?」
「別に。何でもない」

 フィオレはそれを思い浮かべながら、衛に催促されながら身繕いを進めた。
 シャツを羽織ながら、鏡に映った自分の身体にも、衛の残した痕が確認する。衛の唇が吸い付いた痕、衛の歯が食いついた痕、そして衛の爪が食い込んだ痕。

「衛くん、身体大丈夫?」
「…ああ」
「無理しなくていいよ。痛むだろ?」
「平気だ」

 衛は顔色も変えずに淡々と応える。

「朝飯のルームサービス、もう間に合わないな。外で食おう」

 衛はてきぱきと荷物を纏め、空になったベッドのシーツを簡単に直している。
 その様子は普段通りの衛の姿だった。

「…いつもの衛くんに戻ったんだね?」
「いつでもオレだけど?」

 フィオレに視線を寄越さず、衛はさらりと返す。

「…でも、もう僕だけの君じゃない」
「オレは誰のものでもないぞ」

 衛は手際良く準備を終え、靴を履いていないフィオレに構わず部屋を退出しようとしていた。

「あ、待ってよ、衛くん!」
「置いてくぞ?」

 扉の内側で催促する。
 フィオレは慌てて靴に足を突っ込むと、衛が纏めてくれた鞄を掴んで後を追った。
 
「……」
「ちょっと待って、靴が…」
「フィオレ」

 靴を履こうと前屈みになったフィオレの肩を掴むと、衛は腰を屈めてキスをした。
 暖かな柔らかい唇が重なり合う。

「…衛くん」
「ほら、行くぞ」
「う、うん」
「早くしろ。…同じ場所に帰るんだぞ?一緒に行くんだろ?」
「う…、うん!」

 フィオレは満面の笑みを浮かべた。
 その笑顔に衛は照れてしまい、ほんのりと頬を紅らめた。

 そして二人は部屋を後にした。
 一夜だけの彼らの場処は、小さな音を立てて鍵がかけられた。


 ■END■

連載形式で書いたものを纏めています。
小出しに発表するのは初めてだったので、エロ場面は多目に設定しました。
後で読んで見ると、なんだか場面が多過ぎて、疲れを感じますね(笑)
やはり一気に書き上げる方が私には向いてるかなぁ?でもそうすると更新遅いし〜。まぁ色々試してやって行こうと思ってます。
それにしても。フィオレと衛たん。相変わらず、タフな二人だなぁ(笑)   2005.05.08 >゜))))彡

(2005.01.16〜02.04 20回連載)
イラストは、連載時にへのさんが描いて下さいました♪


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